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【食品】商流から見る値上げの仕組み

食品メーカーの仕事

 昨今、多くの食品が値上げラッシュで家計を苦しめていると思います。この値上げというのは単純な原材料の高騰はもちろんですが、多くの要因、そして商品がメーカー工場から消費者の手に届くまでの商流が影響して最終的な値上げ価格に繋がっています。
 今回はその値上げまでの流れをメーカー目線で解説していきます。

値上げの要因

 まずは、食品がどういった要因で値上げに至るのかを述べます。商品によって細かい値上げ要因は変わってきますが、ここに書くのはあくまでも代表的なものとします。

要因①:原料の高騰

 最初に挙げるのが、皆さんも想像しやすい「原料の高騰」です。多くの加工食品メーカーは、商品をつくるためにそもそもの原料が必要であり、パスタなら小麦粉、マヨネーズなら油や酢、などがあります。そして原料が高騰=値上げすることで、そこからつくられる商品も値上げに迫られます。
 また、これは加工食品だけの話ではなく、そもそも原料を供給しているメーカーでも同じことが言えます。例えば、小麦粉メーカーは自社で小麦を栽培していなければ農家から小麦を仕入れるため、小麦自体が値上がりすれば小麦粉も値上げの必要があり、もし自社で栽培していたとしても肥料などが値上がりすれば合わせて値上げせざるを得ない場合があります。

要因②:包材の高騰

 次に挙げられるのが、「包材の高騰」です。包材とは商品が入っている容器や箱のことで、当然のことですが、こちらも商品の費用に含まれます。パスタならプラ包材、カレーなら紙の箱が包材となります。食品メーカーは基本的に包材メーカーに自社製品用の包材をつくってもらいそれを買い取るという形のため、包材が値上がりすれば商品自体の原価も上がることになります。

要因③:運送費の高騰

 「運送費の高騰」も商品の値上げに関わってきます。商品は工場で作られてから、全国の問屋倉庫・スーパーに届けられます。その際の運送費や燃料代が高騰することによって、価格にも影響が出てきます。特に昨今はドライバーの働き方改革やガソリン代の高騰があるため、その要因は強くなってきています。

要因④:商流の各ポイントによる値上げ

 本記事のテーマでもある「商流が進んでいくごとに行われる値入改善による値上げ」も商品の価格を上げることになります。詳しくは次段落で述べますが、メーカー、問屋、スーパーと商品が流れていくにつれ、各事業者が値入(利益率)や売価を調整するため、そこでも価格が上がることになります

商流による値上げの仕組み

 では、実際に要因④にある、商流と値上げの関係・仕組みを解説していきます。

ステップ①:原料や包材・運送費の高騰により商品原価が値上げ

 まずは、食品メーカーが原料・包材・運送費の高騰を受けて商品原価の値上げを決定します。商品原価はあくまでメーカー内の極秘情報であり、社内の人のみが知ります。そして、商品原価が上がったことにより、今まで通りの価格で売っていれば利益が減るため、会社として商品価格(専門的な言い方をすれば、仕切価格標準小売価格などのこと)の値上げをリリース(発表)します。このリリースによって初めて、問屋やスーパー、私たち一般消費者はメーカーの値上げを知ることができます。
 例えば、小麦粉メーカーが、原料の小麦の高騰・包材の袋の高騰・ガソリン代の高騰を受け商品価格10%アップの値上げ発表といったようなことがあります。

ステップ②:メーカーから問屋へ値上げ見積の提示

 そして、このリリースの後、食品メーカー営業はまず直接の卸先である問屋(商社)に対して値上げの見積を提示します。基本的にはリリースされた商品原価の値上げ幅と同様の見積を提示しますので、10%値上げのリリースがあれば、今まで100円で問屋に卸していた商品を110円に変更するための見積を問屋に提出します。(場合によっては交渉によって10%ではなく8%の値上げで収めるなどのこともあります。)

ステップ③:問屋からスーパーへ値上げ見積の提示

 次に、問屋からスーパーへ値上げ見積の提示が行われます。今まで100円で仕入れて125円で卸していた商品が、仕入れが110円になる(10%値上げ)ならば、卸値を 125×1.1=137.5円 に値上げする見積をスーパーに提示します。これをしないと、スーパーへの卸値は変わらず問屋の仕入れ値だけが上がるので、問屋が損をしてしまいます。

 しかし、ここで注意すべきは、問屋はあくまで商品の流通を仲介することでの仲介手数料(仕入れ値と卸値の差額)をもうけとしているため、利益拡大するには、その仲介時の利益率を上げるしかありません。そして、値上げと言うのは、この商品の利益率を上げるのに絶好の機会となっています。利益率を上げるには、①仕入れ値を下げる、②卸値を上げる、の2つが考えられますが、普段何もない時に急にメーカーに対して値下げ交渉や、スーパーに対して値上げ交渉は難しいです。ですが、メーカーからの価格改定発表が行われると、否が応でも見積を作り直す必要があるので、その際に今まであまり利益が取れていなかった商品の値入(利益率)を改善することがあります
 今回の例で言えば、値上げ前の利益率は、 (125円-100円)/125円×100=20%(詳しい計算方法は別記事にて解説)でしたが、利益を改善するため値上げ後の卸値を140円にすることで、利益率が (140円-110円)/140円×100=約21% となり、1%の利益改善と言えます。
 問屋の利益改善が入ることで、本来の値上げ幅よりさらに値上げされる、この現象が「要因④:商流の各ポイントによる値上げ」の一つになります。

ステップ④:スーパーが売価変更(値上げ)

 最後に、スーパーが商品を値上げ売価に変更します。ここでも③(問屋→スーパーの場合)と同様に、仕入れ値が値上げ(137.5円or140円)になるのならば、それと同程度の率(10%~)で売値も値上げしなければ、スーパーが今までより損をすることになりからです。
 しかし、スーパーの場合はあえて売価は変えずに利益率だけ減らして、その代わり他店との差をつけ数を売って利益をカバーするというパターンもあるので、必ずしも値上げに直結するとは限りません。ただ、昨今は消費者も買い控えの傾向があり、安いからその分売れる訳ではないので、だいたいは値上げをすることになりますが…

 また、ここでも③と同様に、スーパー側が値上げのタイミングで今まであまり利益が取れていなかった商品の値入(利益率)を改善することがあります
 今回の例(仕入れ値140円にアップの場合)で言えば、値上げ前の利益率は、(188円-125円)/188円×100=約34% でしたが、利益を改善するため値上げ後の売価を218円にすることで、利益率が (218円-140円)/218円×100=約36% となり、2%の利益改善と言えます。
 値入改善以外の目的もあり、スーパーの売価は1の位が「8,9」あたりが好まれ、「2,3,4」などの半端な数字は避けられる傾向にあるため、単純値上げの計算結果の1の位によっては売価が若干繰り上がる場合もあります。
このようにスーパーの利益改善が入ることで、本来の値上げ幅よりさらに値上げされる、この現象も問「要因④:商流の各ポイントによる値上げ」の一つになります。

全体としての流れ(ステップ①~④)

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 以上が値上げの全体の流れとなります。「原料等のアップにより商品原価が値上げ」→「メーカーが問屋に対して値上げ」→「問屋がスーパーに対して値上げ」→「スーパーが売価を値上げ」という商品の流れ(商流)通りに影響していき、私たちの手元に届く商品は値上げされています。
 そして、本来なら商品原価自体は10%の値上げのため、売価188円の商品は 188×1.1=207円 となるところが、商流をたどっていくことにより218円(約16%の値上げ)にまで引きあがる場合もあります。(あくまで一例のため、これより高いことも安いことも当然あります。)これは、ステップ③④で説明したように問屋やスーパーが値上げのタイミングにて利益改善を図ることにより引き起こされます
 もちろん、問屋やスーパー、メーカーも営利企業のため価格を自由につける権利があるので、企業に非があるという訳ではありません。各企業は競合の価格状況を見ながら、経営判断によって利益改善を図るかどうかバランスをとっています。
 また、値上げはちょっと原料の価格が上がったからすぐ実行するという訳ではなく、ある程度現行価格で耐えながら赤字ラインが見えてきたら一気に値上げ実行という企業も多いです。そして、その値上げというのも、解説の便宜上、矢印で順番に行われると表現しましたが、実際はスーパー側が値上げを決定(同意)したと同時にいっせいのーでで、スーパーへの卸値・問屋への卸値を値上げすることも多いというのが私の実感です。

まとめ

 今回は、食品業界の商流から見た値上げの流れを解説しました。値上げは単純に原料の高騰だけが影響しているわけではなく、複雑に絡み合った要因も関係あるというのが何となく分かっていただければと幸いです。また、食品メーカー営業に従事する場合は値上げは必須の仕事とも言えるので、理解の助けになればと思います。

メーカー側のお話「値上げ見積の作り方」は以下にて

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